リーガルボイスー10 滞った養育費を回収するには

滞った養育費を回収するには

成人になるまで養育費が支払われるケースは20%

 離婚後の最も重要な課題のひとつが養育費です。養育費を払うことになっていても、成人になるまで滞りなく支払われるケースは、わずか20%というデータが出ています。離婚した元夫婦の5組に4組は養育費が何らかの形で未払いとなっています。ショッキングなことだと思います。
 残念ながら、弁護士に依頼したケースでも、最終的に未払いになるケースは少なくありません。幸い私のところには、養育費の支払いが止まったという報告はありませんが。

養育費の回収方法は?

 では、養育費の未払いにはどう対処すればいいのでしょうか。
 養育費を任意に支払ってもらえないときの回収方法は、

⓵家庭裁判所での調停や審判
⓶公証役場で公正証書の作成
を経たうえでの給与の差押えか口座の差押えが一般的です。

 給与の差押さえに対しては、義務者(養育費の支払い者)が退職する、口座の差押えに対しては、口座を空にする、解約して現金化する、他の口座に移し替えるという手段をとられることがあります。しかもこれらの対抗手段はかなり有効なのでやっかいです。新たな転職先や口座の開設先は、基本的に誰も教えてくれないからです。
 養育費を回収するには、裁判所を通じて、市役所や金融機関に照会をかける方法があります。これだと、養育費の支払いの拒絶に対する抑止的効果も期待できます。ただしこの方法は現在、 法制審議会で審議中のため、まだ使用できません。近いうちに法制度化されるものと思います。注視しておきたいものです。

新養育費算定表に当てはめる

 ところで養育費の問題は、不払いだけではありません。養育費の額や支払い能力などが問題視されます。そのため、養育費算定表というのがあります。養育費の支払い基準のようなものです。
 この養育費算定表のことを知らずに養育費を取り決めた権利者(母親)が、「養育費が少ないので増額してもらいたい」と弁護士に相談をしたにもかかわらず、養育費算定表に当てはめると、かえって金額が減ってしまうという、逆効果が生じたケースもしばしばありました。しかも従来の養育費算定表は、「金額が少ない」「個別の事情を考慮していない」等の批判がありました。

 そこで注目したいのが新養育費算定表です。平成28年に日本弁護士連合会より提言されたものです。では従来の養育費算定表と新しい養育費算定表はどこが違うのか。主な違いを記します。

●従来の養育費算定表
⓵特別経費等の控除は一律
 特別経費(住居費等)・公租公課・職業費の控除が一律に控除され、基礎収入が低い金額におさえられる(総収入の4割程度)結果、養育費も低い金額になりがちです。
⓶子の年齢区分は2つ(0~14歳、15~19歳)
 乳幼児と小中学生の生活費指数が同じであるため、小中学生を監護・養育する場合に満足できるような金額に満たないことが多くなります。

●新しい養育費算定表
⓵特別経費等の控除は個別かつ限定的
 特別経費(住居費等)・公租公課・職業費の控除は個別かつ限定的になされ、基礎収入が高い金額となる(総収入の6~7割程度)結果、養育費も高い金額になります。
⓶子の年齢の区分は3~4つ(0~4歳、6~14歳《6~11歳、12~14歳》、15~19歳)
 乳幼児と小中学生の生活費指数を区別して小中学生の生活費指数を高く設定するため、小中学生を監護・養育する場合により高い金額の養育費となります。

 裁判所では養育費の金額を決める場合、旧算定表の枠にとらわれない判断に移行しつつあるといわれています。よって権利者は、新算定表に基づいた主張をする価値はあると思います。詳しくは弁護士にご相談ください。

※参考
「養育費・婚姻費用の新しい簡易な算定方式・算定表に関する提言」(日本弁護士連合会)
PDFダウンロード可
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2016/opinion_161115_3.pdf